TIPA展2024 開催レポート

TIPA展

展覧会名:TIPA アートプロデュース2024
徳永写真美術研究所に関わる作家7人の個展と研究活動の報告展

会場:大阪府立江之子島文化芸術創造センター 4階 (ルーム1、2、3)
会期:2024年3月20日(水)- 24日(日)
時間:11:00 – 19:00 ※最終日は16:00まで

トークイベント:3月23日(土)15:00 – 16:30
「 創作実験クラブの活動について & 本展の見どころ解説 」
話し手:徳永好恵

フライヤー図版 ダウンロード可


●ごあいさつ

徳永写真美術研究所の活動は2008年に大阪・鶴橋にてスタートし、15年間にわたり写真と美術を中心に研究を継続してまいりました。この度、研究所に関わるメンバーと共に「作家7人の個展と研究活動の報告展」と題するプロジェクトを開催します。
本企画は、個展形式で展示をおこない、研究活動の報告については創作の源泉となる体験を重ねた成果を紹介します。いずれも、技法に括りはない展示となります。

●出品者
〇 個展
Space1:徳田 優一
Space2:中井 陽一郎
Space3:渋谷 美鈴
Space4:東松 至朗
Space5:徳永 隆之
Space6:出村 実英子
Space7:水谷 俊明
〇企画展
創作実験クラブ活動報告
クラブ部員
興津 眞紀子 / 佐藤 亜希子 / 建石 芳子
谷口 正彦 / 出村 実英子 / 徳永 好恵

 

 


Space1:徳田優一 Yuichi Tokuda


Others
2023年
22×28 inch
写真:ピグメントプリント

人は他者の顔を記憶することができない、と言ったら信じられるだろうか。家族や友人、同僚の顔を見ればすぐに誰だとわかるが、記憶を頼りに絵を描こうとすると途端に難しくなってしまう。知っていると思っていた顔の細部が思い出せないのだ。
認知心理学の研究では、人は他者の顔を目・鼻・口などのパーツではなく、顔全体をひとつの形として認知・記憶することがわかっている。
家族の顔を至近距離で眺めているとき、見慣れないものに感じる不思議な経験をしたことがある。全体として認識していた顔が一時的に部分として映り、普段と異なったものに見えたのだろう。
このような経験から本作では、他者の顔に対する認知・記憶の不確かさを視覚化する。通常より大きな孔のピンホールカメラで、室内の窓から入る光を使って撮影した。撮影する「カメラ」と対象を認知する「人」を、内部に光を取り込む2つのカメラオブスクラ 1 ) とし、それぞれの内側で起こる現象を重ね合わせた。
被写体の立つ室内は普段私たちが見ている現実の空間としてあるが、そこに向けられた「人の視覚」と「カメラ」は結果的に目の前にあるものとは異なったイメージを生成する。
ここでは、ポートレートを「他者の表層」ではなく、「他者の表象(記憶のイメージ)」として写し出している。
これは人が他者を認知・記憶するその行為の不確実性を写したポートレート作品である。

1 )「暗い部屋」という意味のラテン語で、光を通す小さな孔を持つ箱のことを指し、孔から入
った光は箱内の壁に投影され景色などの像を映す。この像は精密な絵画を描く下絵として活用された。壁面に感光材を配しレンズを備えることで初期の写真機となる。

●徳田優一プロフィール
1981年長崎県生まれ、大阪府在住
カメラを介し光を扱うことで生成されるイメージと、人が認知する世界とのズレや重なりに興味を持ち、写真作品の制作に着手する。
https://yuichitokuda.com/

 

Space2:中井 陽一郎 Yoichiro Nakai


水平線が泛かびくるとき
2023年
11×14 inch
写真:ゼラチンシルバープリント

わたしが外界を「視る」あるいはわたしにとって外界が「視える」ということの不可解さに最近ますます取り憑かれている。
人は、眼の網膜に映った像を「視ている」わけではなく、脳が経験と記憶をもとに視覚世界としての外界を創りだしているといわれているが、海辺に立ち遥か彼方を視晴らすとあまりにもくっきりとした鋭い直線としての水平線を、またある時は海面と空のあわいに溶け込みそうな光の帯としての水平線を眼にすることができる。
自然界に輪郭や線は存在しないはずではあるが、刻々と変貌するこれら多様な水平線は自然が創りだした造形物としてまさしく外界に存在しているようにわたしには感じられ、このわたしが描いた視覚世界としての層を透かし視ることによって成立しているなどとは到底信じることができない。
それでもなお外界は人が各々創りだしてきたものであるとするならば、なぜわたしは外界をそのように知覚することができるのか、視覚を含めた五感をもって外界を自身の内に取り込むことができるのか。また、どのようにしてこれらを記憶として留めることができるのか。
わたしはこの不可解に自らの視覚をもって少しでも近づいてみたいとの衝動に駆られ、外界をモノクロフィルムに潜像として捉える試みを続けている。

●中井 陽一郎プロフィール
1950年京都府生まれ、京都府在住
京都芸術大学卒業時に、被爆樹を被写体に積み重なった時間や過去の記憶を留めることをテーマとした写真作品を制作する。現在は外界を「視る」あるいは外界が「視える」ことの不可解さをテーマとする。

 

Space3:渋谷 美鈴 Misuzu Shibuya


goddess
2017-2024年
写真:アーカイブピグメントプリント・和紙

美醜の価値観、その先にあるものを写し撮ろうとしています。
私は自身へのコンプレックスから、顔の造形に固執していましたが、初めてルーヴル美術館で サモトラケのニケ を見た時、心から美しいと思いました。感じる力強さ、繊細さ、神聖さ。しかしそこに私が固執する頭部はありませんでした。
その事から女性の身体を彫刻的に捉え、身体美や神性を表現する写真作品を制作しています。このシリーズ goddess ではギリシャ神話に登場する女神や日本の神道の巫女をモチーフにした作品が数多くありますが、先に被写体に物語を話し、演じてもらう事で表情やポーズにもその人の意思ではない無意識のものを写したいという意図があります。
不自然な写真が溢れるこの時代に、身体の造形美や引き込まれる表情によって普遍的な美について考えることのできる作品を生み出していきたいです。

●渋谷 美鈴プロフィール
兵庫県生まれ、大阪府在住
フォトグラファーとして活動しながら、作品制作も精力的におこない、国内外で写真を発表する。これまでに巫女や女神の存在を具現化させ、普遍的な美しさを問う制作を続ける。
https://www.shibuyamisuzu.com/#1

 

Space4:東松 至朗 Shiro Tomatsu


VIEW OSAKA 記録の街
2010ー2019年
写真:インクジェットプリント

「VIEW OSAKA 記録の街」は2010年代の大阪市内の街景記録写真の展示です。
壁面中央の展示は2014年1月~2015年12月の2年間に撮影した「大阪市の一丁目1番地」全583町の街景写真です。壁面左側と右側は2010年代に撮影した大阪市街景写真で、映り込んでいる「物・建物」は既に現地から消えています。
私たちが2010年代の大阪市内に「これはたしかにあった」街景写真を眺める時、遠い過去から沸き起こる記憶は写真を視た人それぞれ固有の記憶であり他の人と同じ記憶でないと思います。写真からどの様な記憶が呼び起こされるのでしょうか。
会場に5冊の写真集を展示します。「VIEW OSAKA」シリーズはデジタルカメラで撮影した2010年代の大阪市街風景写真です。何気ない大阪市街の風景写真は、2010年代を生きた人たちにとって特段珍しい風景でもなく、あえて興味を持つことを強く期待する対象でもありません。
2010年代の大阪街風景の写真を遠い将来まで個人の力で残す方法はデジタルデータでなく紙媒体の「本」にするのが一番であると考え出版しました。国内外の図書館や美術館・博物館等に所蔵されることで、2010年代の大阪市街風景記録が遠い将来まで残ると考えています。

●東松 至朗プロフィール
1948年岐阜県生まれ、大阪府在住
大阪市内の街景撮影を2010年より継続中。京都芸術大学卒業時に「VIEW OSAKA THE DOME」を発表する。これまでに大阪を撮影した写真集5冊を出版、それら写真集を国内外の図書館、博物館、美術館、大学研究機関等に所蔵を依頼し、大阪市街風景を将来に残す活動を進める。
https://viewosakatowns.blogspot.com/

 

Space5:徳永 隆之 Takayuki Tokunaga


現実の向こうへ
・The World Map of the Japanese 2024年
図像:ピグメントプリントをファリング、プラチナプリント
・見えるもの 見えないもの 2016年
写真:インスタントフィルム
・Laputa 1993年 -
写真:ゼラチンシルバープリント、ピグメントプリント
・現実の向こうへ 2022年 / 2024年
写真:ゼラチンシルバープリント、ピグメントプリント

ふと疑問に思った。
私が見ている物と他者から見えているものは同じなのかと。
現実と感じているものは本当に現実なのか。
存在しているか否かは思想に委ねられているのだろう。
そうなれば、見えるものも異なると考える方が自然なのかもかもしれない。
個々によって異なる現実。
それを越えたところが見たいと思った。

●徳永 隆之プロフィール
1970年福岡県生まれ、大阪府在住
大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、Southampton大学写真講座助手を経て大学及び専門学校の講師を勤め、2008年に徳永写真美術研究所を開設する。作家活動においては、情報や教育が人類へ及ぼす影響に興味を持ち作品制作を進める。
https://takayuki.tokunaga-photo.com/

 

Space6:出村 実英子 Mieko Demura

会場撮影:岩井由美

存在と蔭
2024年
サイズ可変 インスタレーション
独自技法、サイアノタイププリント、織り
真綿、ナイロン糸、水彩紙、ワイヤー 他

私たちは、主に視覚から情報を得て、ものの存在と蔭を認識している。ものに光が当たると、光が遮られた場所に蔭ができる。私たちは無意識のうちに、蔭はものと切り離すことができないと考えており、ものを主として蔭をものに従属するものとして見ている。
しかし、本当に蔭は従属的な存在なのだろうか。写真技法の一種であるサイアノタイププリントは、紙や布に感光剤を塗布し、ものに太陽光などの光をあてて像を定着させたものである。露光されたプリントは、ものの存在をもはや必要としない。白い定着像は、蔭であったことを否定し、それ自体の自立性を主張しているかのようである。
また、光が透過する半透明なものとその蔭は、主従というより、むしろ双子のように溶け合って見える。それらはある瞬間には、蔭の方が色濃く見え、主従の立場が逆転しているような錯覚を覚える。今見ているものはどちらかという疑問を持つことは、蔭が常に従属的であるという前提を疑うには十分であろう。
本展覧会では、制作テーマである「心静かに立ち止まれる場所をつくる」ということを念頭に置きながら、ものとその蔭の関係をみつめ、先入観で世界を見ることの不確かさを問い直したい。

●出村 実英子プロフィール
茨城県生まれ、奈良県在住
結城紬の工房で着物・帯を製織する仕事に就いた後、京都芸術大学にて芸術としての染織を学ぶ。極細繊維を使った透過性のある織物により、心情や概念を表現することに取り組む。近年は織りの技法に留まらない表現手段で制作をおこなう。
https://www.instagram.com/mieko_demura/

 

Space7:水谷 俊明 Toshiaki Mizutani


origami frottage – 見えない光を掬い取る
2018-2023年
サイアノタイププリント: 20.0 x 20.0 cm
モビ-ル : サイズ可変
ケント紙、木製パネル、ステンレスワイヤー、プラ板、綿糸、金具

私たちが存在する空間は、様々な方向に飛び交う光線で満たされていますが、光そのものを見ることはできません。そんな見えない光を折り紙で掬い取る手法を考案し、”origami frottage” と名付けました。光が折り紙に当たって生じる陰影は、サイアノタイプによって折り紙自体に写し取られます。そこには光の入射方向とい
う情報が、三次元性を保ったまま保存されています。視点の移動に伴って青と白のパターンが変化するとき、鑑賞者の脳内では、かつてあった光の空間が復元されているのかもしれません。
紫外線付近の光に反応するサイアノタイププリントという技法は、ヒトの環世界を拡張する手段であると考えています。大気中の分子や微粒子に散乱•反射されやすい紫外線は、空気の流れに応じて揺らいでいるのではないか?そんな想像を基にモビ-ルを制作しました。過去の光の記録を手がかりにして、目の前の見えない光に思いを馳せる。そんな作品です。

●水谷 俊明プロフィール
1971年滋賀県生まれ、滋賀県在住
大学では動物学を専攻しハチドリを観察対象とする。現在はヒトには見えない光の姿を捉えることに着目し、紫外線付近の光に反応するサイアノタイププリント技法での印画に取り組む。

 

企画展:創作実験クラブ活動報告


創作実験クラブは、表現の引き出しを増やすことを目的に、様々な視点で、多くの体験を重ねてきました。本展では幾つかの実験と、そこから作品化した取り組みを展示します。

●実験リスト
コラグラフ、ストリング、転写、レジン、草木染、フォトグラム、
石こうプリント、クロマトグラフィー、焼き物、フロッタージュ、
炭化、あぶり出し・・・

●創作実験クラブについて
2018年に徳永写真美術研究所の活動の一環として発足。「準備物は好奇心、まずは手を動かし表現の引き出しを増やしましょう。」をモットーに多分野で活動するメンバーが集い、創作の源泉となる体験を重ねる。TIPA展の特別企画として、これまでの実験結果を綴じたファイルと試作の一端、そして作品化した取り組みを紹介します。

●クラブ部員
・興津 眞規子 画家
・佐藤 亜希子 実験愛好家
・建石 芳子 写真家
・谷口 正彦 写真家
・出村 実英子 染織家
・徳永 好恵 美術家

●トークイベント

3月23日(土) 15:00 – 16:30
創作実験クラブの活動について & 本展の見どころ解説
話し手:徳永好恵